大判例

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名古屋高等裁判所 昭和25年(ネ)25号 判決

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴会社がその從業員である控訴人に対し昭和二十四年八月十一日なした解雇は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

三、事  実

当事者双方の事実上の主張は被控訴代理人において、被控訴会社が昭和二十四年の人員整理の基準として定めた事項で労働組合との団体交渉の途上発表した事項は(一)退職希望者(二)業務上不急不要の部門に属するもので配置轉換困難なもの(三)作業上過剩にして配置轉換困難なもの(四)職場秩序を乱すもの(五)経営効率に寄與すること尠いもの(六)過去に不始末な行爲があつて改悛の情尠しと認められるもの(七)離職による影響の尠いもの(八)技能未熟者の八項目であつて被控訴会社では右基準によつて整理対象者を各職場の長において定めこれを再度被控訴会社の部長課長が檢討した上整理対象者を定めた。控訴人は右基準中(五)及び(七)に該当し整理対象者となつたがその希望退職がないため解雇したのである。勿論右(五)の基準に該当するものとしたについては控訴人在職中の各職場における成績とその在職年数とを他の被整理者のそれと十分比較檢討し且控訴人が應召帰還者であるという立場は尊重考慮したのである。また控訴人は独身者であるから他の妻子あるものすら止むなく離職せしめた事情に照し控訴人を右(七)に該当するものとしたのは当然である。と述べた外原判決摘示事実と同一であるからこれを引用する。(証拠省略)

四、理  由

控訴人は昭和十二年九月被控訴会社の從業員となり昭和十七年十一月應召以來休職になつていたが昭和二十四年六月末頃帰国したこと及び同年八月十一日被控訴会社が控訴人を解雇したことは当事者間に爭がない。

控訴人は被控訴会社の右解雇処分は憲法第二十五條及び同第二十七條に違反するという。しかし憲法第二十五條は国が国民一般に健康で文化的な最低生活を営ましめる責務を有することを規定したものであつて、個々の企業者に対してその義務を課したものでなく、また同第二十七條に国民は勤労の権利を有するといつてもこれによつて直接使用者が労働者を解雇することを一般的に禁止したものと見るべきではないから、本件解雇が他に違法の点のない限りこれによつて控訴人がその職を失い路頭に迷うことになるとしてもこれを無効とすることはできない。

控訴人は被控訴会社は解雇権を濫用したというがこの点について控訴代理人はその具体的に事実を明示せずその弁論の全趣旨において控訴人がソ聯よりの帰還者であつてその思想傾向が被控訴会社の意に満たないために解雇せられたというものの如くである。しかし当審証人相羽一の証言だけでは右事実を認めるわけにはゆかないし他にこれを認める証拠がない。却て原審証人高橋達男原審並に当審証人松永茂正の各証言を綜合すると昭和二十四年被控訴会社は国鉄からの車輛注文の激減により大打撃を受け企業整理の必要に迫られ、その從業員で組織する労働組合と種々接衝の末同年七月九日両者の間に人員二割一千百名整理、賃金一割引下という整理方針大綱について協定ができたので、引続き会社は組合側の暗默の同意によつて被控訴代理人主張のような整理基準を作成しこれによつてその主張のような手続に從い愼重に整理対象者を定め、同月二十七日全從業員に対し七月三十日までに退職希望を申出たものに対しては現行規定による退職金の外平均賃金の二ケ月半分を支拂うが、整理該当者で希望退職をしないものについては解雇し退職金の外法定の解雇手当のみを支拂う旨を告知し、同日残留すべきものに対しその通知を発し、次で右希望退職の申出期限を八月五日に延長した結果希望退職の申出数は予定整理人員を超過し解雇者四名を含めて合計千四百四十二名が同日までに整理された。しかし会社はこれによつて必要以上の整理ができたわけではなく当時の情勢からは五割の人員整理が必要であつたのであるが、組合側の要望によつて二割整理の止むなきに至つたのであつて現在においてもなお整理者を再採用し得る状態にないことを認めることができる。

ところで更に前記各証人及び原審証人大野定義、稻熊直彦の各証言原審における控訴本人の供述に成立に爭のない乙第二号証を参照すると、控訴人がソ聯より帰還して被控訴会社に復職方の申出をしたのは同年七月十一日であるが、時恰も前記整理方針大綱が決定した後であつて被控訴人が前記整理基準から見て被整理者となる可能性が大であつたので、会社は右の事情を告げて復職を断念し引揚者として他に新規就職方を申向けたところ控訴人は一旦はこれを了承し退職金に関する交渉を組合幹部に一任したのであるが後翻意しその後数回に亘つて会社に復職方を迫つた。しかし控訴人は被控訴会社における在職年数は五年に過ぎないのに前記整理基準(五)に從つて整理されるものの平均在職年数は六、七年であつたこと及び同(七)によつて整理されるものの中には妻子あるものも多数を含んでいたのに控訴人は未だ独身であつた等の事情から控訴人が應召帰還者で同情すべき立場にあることを考慮してもとうてい右(五)及び(七)に照して整理を免れない事情にあつたので、再三再四希望退職の有利なることを説き、最後に同年八月十一日控訴人に対し希望退職方を勧告したが應じなかつたので遂に被控訴会社はこれを解雇することとしその旨及び法定の解雇手当及び規定退職金を直に受領すべき旨を通知したが、控訴人はその受領を拒んだので右金額を供託したものである事実を認めることができる。

以上の経過に徴し被控訴会社は控訴人の解雇に当り、他の從業員に比し特に不利益な取扱をなしその他解雇権を濫用したと認めることはできないので控訴人の右主張もこれを採用するを得ない。

よつて控訴人の本訴請求はその理由がないのでこれを棄却した原判決を相当と認め訴訟費用につき民事訴訟法第八十九條第九十五條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中島奬 茶谷勇吉 白木伸)

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